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東京高等裁判所 昭和31年(ラ)732号 決定 1956年10月24日

再抗告人 高橋蒼生子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

再抗告代理人は「原決定を取消す。本件を千葉地方裁判所に移送する。」との裁判を求め、その理由として、別紙のとおり主張した。

本件記録をみると、本訴は、本来民事訴訟法第五四九条によるいわゆる第三者異議の訴であるから、同条第三項、第五四三条第一項、第五六三条によつて千葉地方裁判所の専属管轄に属するものであるから、千葉地方裁判所が昭和三十一年二月十四日なした本件を千葉簡易裁判所に移送する旨の決定は、違法なものであるが、右決定に基いて本件が千葉簡易裁判所に移送された以上、民事訴訟法第三二条によつて同裁判所は右決定に拘束され、本件を千葉地方裁判所に更に移送することはできないのである。専属管轄に反して移送決定がなされると、当事者に対し不利益な結果をもたらすことにはなるが、当事者は移送決定に対し即時抗告で争うべきで、右決定が確定した上では、上記のように、さらに移送決定をなし得ないと解さないと、移送のくり返しがなされるおそれがあつて、却て当事者の権利を強く侵害することになるからである。このように解して、専属管轄に関する例外的のものを認めるのもやむを得ない措置であるから、憲法第三二条に違背するものでもない。

よつて、これと同趣旨の原決定は相当で、本件再抗告は理由がないから、これを棄却し、主文のように決定する。

(裁判官 柳川昌勝 村松俊夫 中村匡三)

再抗告の理由

一、原審決定の理由とするところは移送の裁判は移送を受けた裁判所を拘束し民事訴訟法第三二条の規定により更らに事件を他の裁判所に移送することができないと言うにある。

然しながら民事訴訟法は、訴訟の行動を定めたるものであつて、その目的は私権保護の手段であるが故に独り裁判所の行動のみの規定に捕われて判定すべきものでない。須からく当事者の行動を定めたる規則にも意を用べきである。

民事訴訟法第五百四十九条第三項の規定によれば強制執行に対する第三者の異議の訴は明かに執行裁判所の管轄に属するものなるが故に当事者が管轄違いの妨訴抗弁を提出しこれを攻撃するときは裁判所はこれを認容すべきであるのに偶々本件が地方裁判所より移送せられたる事件なりし為めに民事訴訟法第三十二条の規定に拘束され仮令抗告人の主張が正当であつても如何ともなし難き地位に置かれてあつて已むなく抗告人の妨訴抗弁を排斥したのであろう。

二、然れども右決定に対し当事者より抗告がありたる場合にこれを判断するに当つては当事者の主張が適正なりや否やを審理すべきものである苟もその主張が正当なりとせばこれを許容すべきであるのに啻、民事訴訟法第三十二条の規定のみに捕られて同法第五百四十九条第三項の規定の存することを顧みざるは審理不尽の憾あり、殊に我が民事訴訟法は、当事者処分権主義を採用し当事者を主として訴訟の行動を為すべき立法の精神と私権保護の手段たる訴訟法の目的とに鑑み抗告人の抗告を輙く棄却すべきものではないと思料する。

三、惟うに民事訴訟法第三十二条は裁判所間の訴訟の行動を規定したもので、これを当事者に強要すべきものではない。即ち移送を受ける裁判所は自己の判断により自ら進んで更らに他の裁判所に移送は出来ないと規定したので、当事者よりその裁判所の管轄が違法でありこれに対し抗争する場合においては、該規定に拘束せられるものではない。何となれば、民事訴訟法第三十二条は裁判所間の規定であつて当事者を拘束することは出来ないからである。況や民事訴訟法第五百四十九条第三項の規定存するが故にその規定の軽重をよく検討して観ればこれを無視することはできないではないか。

四、原審決定は、抗告人の管轄違いの妨訴抗弁を排斥したる結果となり、抗告人は正当なる裁判所における裁判を受くる権利を剥奪せられたことになるが故に、憲法第三十二条に違背するものである。

憲法第三十二条は、国民は何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。と保障されて居る即ち正当なる裁判所において裁判を受ける権利であつて管轄権なき裁判所の裁判はこれを拒否することを得るは当然である。然るに原審決定はこの点を無視したるもので明かに憲法に違背するものであるから前掲抗告趣旨の通り御裁判を仰ぎたく、再抗告に及ぶ次第である。

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